乳がんは女性の部位別がん罹患率1位! 正しく知ることで、乳がんを恐れず適切な予防や治療を選びましょう
胸の病気
国際がん研究機関の最新の報告によると、2020年、世界では230万人の女性が乳がんと診断され、そのうちの685,000人が死亡しました。[注1]また、世界の乳がんの新規症例数が肺がんの新規症例数を上回り、女性のがんの全症例に占める割合で最多になりました。
日本人女性も、乳がんが部位別がん罹患数の1位で、2020年の予測罹患数は92,300人と、全症例の21%も占めていました。[注2]数値からも乳がんは身近な病気だとわかりますが、乳がんについて理解している人は多くないのが現状です。
近年は手術の進歩や乳がんの種類の研究が進み、乳がんのタイプに合わせて適切な治療がしやすくなりましたので、早期に発見して適切な治療をした場合は、約90%が治癒すると言われています。
今回は、乳がんはどんな病気なのか、治療方法や早期発見の鍵などを詳しくご紹介します。
乳がんとは 〜どんな病気?〜
乳がんは、乳腺の組織に発生する悪性腫瘍です。乳管に発生するケースが9割ですが、乳腺小葉などから発生することもあります。がん化した細胞が増えると乳房の中にしこりができ、乳管や小葉内にひろがっていきます。これを原発巣といい、初期の段階の乳がんになります。
この状態では、がん細胞が乳管や小葉の中にとどまっている「非浸潤がん」のため、他の臓器への転移はありません。原発巣のがん細胞が増殖し、乳管や小葉の外へ出ると、「浸潤がん」となり、リンパ管や血管の中に入り込むようになります。
そしてリンパ管や血管を経由して他の臓器に転移するようになります。
乳がんの好発年齢は40~50歳代ですが、34歳以下で発症する「若年性乳がん」の罹患数も増加しています。若年性乳がんは進行が比較的早いので注意が必要です。
また、多くはありませんが、男性にも乳がんが発生することがあります。女性と同様に多くは乳管からがんが発生します。
乳がんの原因 〜リスク要因を知ろう〜
乳がんの直接的な原因は未だ解明されていませんが、いくつかのリスク要因が考えられています。
まず、乳がんには女性ホルモンの1つであるエストロゲン(卵胞ホルモン)が深く関与していると考えられています。
エストロゲンは乳腺の発達に重要なホルモンですが、エストロゲンと乳がん細胞の中にあるエストロゲン受容体が結びつくと、がん細胞の増殖を促します。
このタイプは「ホルモン感受性乳がん」といい、乳がん全体では6〜7割を占めています。初潮が早い、閉経が遅い、出産・授乳を経験がない、高齢出産などが、エストロゲンの分泌過剰につながり、乳がんの発症リスクを高めています。
また、遺伝的要因で乳がんになる可能性があります。
多くのがんは遺伝と関係なく発生しますが、乳がんはタイプによっては、ある特定の遺伝子が関与して発生することが解明されています。
これを「遺伝性乳がん」といい、乳がん全体の5〜10%を占めています。近年では、米女優のアンジェリーナ・ジョリーが遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)のため乳房の予防切除を行ったと公表して知られるようになりました。
乳がんに罹りやすい遺伝子を持っているかどうかは血液検査で調べることができますので、気になる人は遺伝カウンセリングが可能な医療施設に相談すると良いでしょう。
さらに、肥満が乳がん発症リスクと関連していると考えられています。
アメリカがん協会が公開したニュースによると、閉経後の肥満女性は、脂肪組織が多いためエストロゲンのレベルが上昇しやすく、乳がんになる可能性が高くなることがわかりました。[注3]この調査では、閉経前の女性では肥満による乳がん発症リスクの関連は見られませんでしたが、国立がん研究センターが行った日本女性を対象とした研究結果では,日本人女性は欧米人女性とは異なり、閉経前でも肥満によって乳がんの発症リスクを高める可能性があることが判明していますので、日本人女性は閉経前も肥満に注意が必要です。[注4]
乳がんの症状 〜1つでも症状が出たら要注意!〜
乳がんは、初めは自覚症状がほとんどありません。
しかし、がんが進行すると以下のような症状が現れます。
早期発見が乳がん治療において重要ですので、1つでも症状がある場合は医療機関で検査を受けるようにしましょう。
- 乳房にしこりができる
- 乳房の形が非対称になる
- 乳房に痛みを感じる
- 乳房の皮膚がえくぼのようにくぼんだり赤く腫れたりする
- 乳頭から血液が混じったような茶褐色の分泌物が出る
- 乳頭が陥没する
- わきの下が腫れる、しこりができる
乳がんの病期(ステージ) 〜進行度はどうやってわかるの?〜
乳がんの進行度は病期(ステージ)で表されます。病期は0〜Ⅳ期の5段階に分けられます。乳がんの病期分類は下記になります。[注5]
ステージ0
非浸潤がん(しこりは触れず、リンパ節転移なし)
ステージⅠ
しこりの大きさ2cm以下、リンパ節に転移なし
ステージⅡA
しこりの大きさ2cm以下、脇のリンパ節に転移あり
しこりの大きさ2~5cm、脇のリンパ節に転移なし
ステージⅡB
しこりの大きさ5cm超、脇のリンパ節転移あり
ステージⅢA
しこりの大きさ2~5cm、脇のリンパ節に転移あり
ステージⅢB
しこりの大きさ5cm超、脇のリンパ節転移あり
ステージⅢC
しこりの大きさ問わず、鎖骨の周囲、胸骨のリンパ節に転移あり
ステージⅣ
しこりの大きさ問わず、内臓、骨などに転移あり乳がん女性患者の5年生存率は、ステージⅠは100%、ステージⅡは96%、ステージⅢは80%、ステージⅣは40%と、ステージが上がるほど生存率が低くなっていきます。[注6]
乳がんの治療 〜症状に合わせて最善の治療法を選ぶ〜
ステージ0
手術や放射線などの局所療法が主体となった治療を行います。手術後は、再発防止のため薬物療法を行う場合があります。
ステージⅠ-ⅢA
病変に合わせて局所治療と全身治療を行います。しこりの大きさによっては、薬物療法でしこりを小さくしてから手術します。再発リスクが高い場合は、手術後に放射線療法や薬物療法を行います。
ステージⅢB,C
手術療法、薬物療法、放射線治療を組み合わせて治療します。
ステージⅣ
全身治療が主体となります。原則として手術は行わず、薬物療法でがんの進行を抑え、症状の悪化を防ぎます。骨や脳に転移がある場合は症状緩和のための手術や放射線治療行う場合があります。
乳がんの治療法は手術、放射線治療、薬物療法(ホルモン療法、抗がん剤治療、分子標的治療)、など様々ですが、がんの病期やタイプ、健康状態や年齢・既往歴の有無によって、複数の治療を組み合わせることもあります。
乳がん手術は、全乳房を切除する「乳房全摘術(乳房切除術)」と、がんを周囲の正常乳腺を含めて部分的に切除する「乳房部分切除術(乳房温存手術)」があります。乳房全摘術は、乳房は失いますが、局所再発リスクは少ないのが利点です。乳房部分切除のメリットは、乳房を温存できるため、術後の痛みや違和感が少ないことですが、放射線療法を併用する必要があること、全摘よりも局所再発のリスクが高いというデメリットがあります。
温存して再発するのが怖い、でも全摘で乳房を失うのも望まないという方は、全摘術の際に乳房再建術を行うという選択もあります。
乳房再建術は保険適用も可能なため、近年では乳房全摘術と同時に再建まで行う人が増加しています。
放射線療法は、X線をがん細胞に照射して、がん細胞にダメージを与えることで、癌細胞の増殖を抑え、死滅させる治療です。
乳がんでは、主に手術後の再発予防として用いられます。また、再発・転移がんにも有効です。この治療は、手術後、体が回復するのを待ってから開始します。
治療回数は乳がんの種類・病巣の場所によって異なりますが、術後照射では16回〜30回が目安です。1日1回、週5日の放射線治療のため3〜6週間は通院を続ける必要があります。
薬物療法は、「化学療法(抗がん剤)」、「ホルモン療法」「分子標的治療」があり、手術が難しい進行乳がんや、しこりが大きくて手術が困難な乳がんに対し、術前に薬物療法を行いがんを縮小させて手術を可能にする目的で使用されます。
また、手術後の再発・転移防止のためにも用いられます。
化学療法では、抗がん剤を用いて体内のがん細胞を攻撃して、がん細胞の増殖を抑制したり死滅させたりします。
抗がん剤が血液にのって全身に運ばれるので、全身に対して治療効果が期待できますが、正常な細胞にも影響を与えるため、副作用が現れる傾向があります。
副作用は主に脱毛、痺れ、吐き気、口内炎、倦怠感、下痢・便秘、感染症などがありますので、患者の病変や体力に合わせて医師と相談しながら使用期間や量を決めていきます。
治療は抗がん剤の投与期間と休薬期間を合わせて1クールとして、乳がんの進行度や抗がん剤の種類から計画した回数を繰り返していきます。
ホルモン療法は、内服薬や注射薬による全身治療で、ホルモン受容体陽性の乳がん患者が対象になります。
ホルモン剤を用いて体内のエストロゲンの量を減らしたり、エストロゲンがエストロゲン受容体に結合するのを抑制したりして、がんの増殖を抑える治療法です。
治療期間は使用するホルモン剤によって異なりますが、5〜10年が基本とされています。体の火照りやのぼせ(ホットフラッシュ)、血栓、骨量の低下などの副作用がありますが、命に関わる副作用は少ないとされています。
分子標的治療では、がん細胞に特異的にみられるタンパク質や酵素の分子を攻撃し、がん細胞にダメージを与える治療法です。
がん細胞の増殖を促進するHER2というタンパク質が過剰に発生している「HER2陽性乳がん」は、HER2のみ攻撃する分子標的薬を用いた治療法(抗HER2療法)が非常に有効です。[注7]
薬の種類にもよりますが、主な副作用は発熱、悪寒、下痢、発疹などになります。
予防や早期発見の重要性 〜定期的なセルフチェックや検診が大切〜
国立がん研究センターの研究結果から、日本人のがん予防は、「禁煙」、「節酒」、「バランスの良い食生活」、「身体活動」、「適正体重の維持」、「感染予防」の6つが重要だということが明らかになっています。[注8]
規則正しい生活で肥満を予防する、体調を整えてホルモンバランスを崩さないように心がけることが乳がん予防になります。
また、早期発見のためにはセルフチェックと定期的な検診が重要になります。セルフチェックは、自分の乳房の状態を見たり触ったりして確認することです。普段から乳房の状態を知ることで、小さな異変にも気づけるようになりますので、月に1度のチェックを習慣づけましょう。
セルフチェックは入浴前後や就寝前などに行うと良いでしょう。まずは鏡の前で乳房の形状(左右のバランス)、や皮膚、乳頭の色などに異常がないかを確認します。次に手で触れてしこりがないか、乳頭から血のような分泌液が出ないかなどを調べます。
もし異常を見つけたら、すぐに医療機関で検査をするようにしましょう。
乳がんは、定期的な検診でも早期発見することができます。40歳以上の女性は2年に1度とすることの受診間隔適切[注9]ですので、好発年齢に入ったら定期的に受診しましょう。近年は若年性乳がんも増えていますので、気になる人は40歳以下でも医療機関で検査を受けましょう。
乳がん検診は、問診、視触診、超音波やマンモグラフィによる検査を用います。40代以上の人はマンモグラフィ、乳腺が発達している20~30代の人は乳腺エコーが適していますが、検査の精度を高めるため、複数の方法で検査する場合もあります。
妊娠・授乳中は、超音波による検査は可能ですが、通常よりも乳腺組織が発達していて正しい結果が得られない可能性があります。
しかし自覚症状がある方は妊娠・授乳の時期にかかわらず医療機関で検診をして早期発見できるようにしましょう。
最後に
乳がんは、世界中の女性にとって一番発症しやすいがんですが、セルフチェックや検診で発見できる可能性が高く、早い段階で適切な治療をすれば高い確率での完治が期待できます。日常生活の改善や、定期的な自己チェックおよび検診を心がけて、乳がんの予防や早期発見に繋げましょう。
- 乳がんは乳腺の組織に発生する悪性腫瘍
- 女性ホルモン、遺伝、肥満などがリスク要因
- 乳房に異常を感じたら医療機関で検診をする
- 病変、健康状態、年齢・既往歴の有無により複数の治療を組み合わせることもある
- 定期的なセルフチェックと検診で早期発見することが重要
出典
[注1]IARC / Breast cancer overtakes lung cancer in terms of number of new cancer cases worldwide
[注2]がん情報サービス(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター運営)がんの統計2021
[注3]アメリカがん協会 / How Your Weight May Affect Your Risk of Breast Cancer
[注4]国立がん研究センター / 閉経前・後ともに肥満は乳がんのリスクに
[注5]済生会横浜市南部病院 / 乳がんの病期分類 ステージ
[注6]国立がん研究センター / 別紙表 1 全がん協部位別臨床病期別 5 年生存率
[注7]乳がん療法ハンドブック
[注8]日本人のためのがん予防法
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